仙台市における環境保全区域は
「広瀬川の流水域及びこれと一体をなして良好な自然的環境を形成していると認められる区域」
と定義されている(広瀬川の清流を守る条例第8条第2項).
環境保全区域では一定の割合(保全率)以上の土地を空地(保全用地)
として,土のままで植物が植わっているか,すぐに植えられる状態で残す必要があり,建築物や工作物の築造に制限がある.
保全用地のことを考えるうえで樹木の役割がとても大切なのでこのことについてもう少し見てみましょう.
土地ができたばかりのときは草木が1本もない裸地の状態で,この状態(図3左)を基準に考える.
時間がたつと土地は草原となり,やがて樹木が生長した土地(図3中)となる.
植物は細胞そのものに水を溜めることができるだけでなく,葉や根を展開した樹木は巨大なスポンジとなり裸地に比べて格段の「保水力」がある.また,深く広く張った根は土地の「透水力」を高め,雨水は地中深く浸透して洪水の被害を小さくするとともに,根から吸い上げられた水は光合成により空気中の「炭酸ガスを吸収」し「酸素を放出」し,大気汚染や地球温暖化に対する極めて効率的な対策となる.
樹木の根は保水力を向上させるだけでなく,地滑りを防ぎ,根から吸い上げた水が葉から蒸散することで,樹影による効果に加えて,さらに地温を下げる.
植物の育った緑の土地は,人のストレスをやわらげ,病気からの回復を早めるだけでなく,多種多様な動物が暮らすようになり,生物の多様性は,病原性の細菌の繁殖や感染症,伝染病の抑制につながる.
しかしながら,手つかずの自然もやがて,人間によって開発され,自然環境を残した環境保全区域以外では,建築物や工作物など人工物に置き換わる都市化の波が押し寄せる(図3右).
都市化した人間の暮らしは大量の炭酸ガスを放出し,コンクリートやアスファルトで固められた人工地盤は,地温の上昇によるヒートアイランド現象により,さらなる炭酸ガスの放出につながり,地球温暖化による気候変動での豪雨災害をもたらし,保水力・透水力を失った人工地盤は異常気象による洪水被害を大きくさせるだけでなく,内地浸水など人工的な下水設備の限界による豪雨災害や地滑りなどにより被害を甚大なものとする.
都市化による人口の集中は,過密な生活によるストレスの増大だけでなく,大気汚染や病原性の細菌,感染症の蔓延をもたらし,パリ協定を離脱したトランプ元大統領のアメリカやアマゾンを乱開発して異常気象に見舞われているブラジルが,コロナ感染症者数の世界でのトップを占め,東京,大阪,愛知といった大都市が緊急事態宣言になるのも,人口が多いだけでなく自然環境がなく多様な生物が暮らす樹木をなくしたからなのかも知れません.
大都市は良好な交通網,医療機関,文化設備,娯楽設備などのインフラをもっているけれど,18世紀には,すでに一部の都市計画者たちは,もっとも大切な都市のインフラの一つは樹木であり,市民の健康な暮らしを守るには,自然環境,とりわけ樹木のある自然環境の保護は決定的に重要であることに気付きました(末尾のYoutube参照).
仙台では,今から約400年前の江戸時代,仙台藩祖伊達政宗公が,家臣たちに,屋敷内には飢餓に備えて,栗・梅・柿などの実のなる木を,敷地境界には杉を植えるように奨め,こうしてできた屋敷林と広瀬川の河畔や青葉山の緑が一体となって,街全体が緑に包まれた「杜の都」となりました.
1945年の仙台空襲で,まちの緑は焼けてなくなってしまいましたが,その後の復興により緑が回復しましたが,
1974年に「都市化の進展は著しく,このまま放置すれば広瀬川の清流は奪い去られようとしている。この市民共有の財産である美しい広瀬川の清流を保全して次代に引き継ぐことは,われわれに課せられた重大な責務である。」
として,「広瀬川の清流を守る条例」を制定し現在にいたるのですが,いま再び広瀬川の自然環境が,宮城県知事の作った,これまで何十年にもわたって保全されてきた樹木を伐採し,アスファルトで地面全体を固めて作った大規模(9000平方メートル以上)人工芝グラウンドにより大きく損ねられようとしているのです.
この記事は,下記のTED-EdのYoutube動画(日本語字幕あり)を参考に書きました.