家を新築するときやリフォーム,建て替えるとき,通常の土地の場合はハウスメーカーや工務店が建築確認をとって建築基準法に則った家を建ててくれる.
土地が環境保全区域にある場合,良好な自然環境に恵まれているのは素敵なことだけれど,その自然環境を開発から守るために,建築基準法に加えてさまざまな環境に関する法律(条例)の制約をうけ,特に敷地面積が限られている個人住宅の場合,思ったような住宅を建てられない場合も多い.
環境保全に関わるのは家というより,ほとんどが庭(外構)の部分で,外構も含めて大手のハウスメーカーに家の新築を依頼する場合はともかく,通常は必要最低限の外構を家の建築時にハウスメーカーに依頼して行い,後日外構業者に外構の造成を依頼するのが一般的と思われるが,多くの外構業者は環境保護のための法律を熟知しているわけでないので,結果的に違法な外構を造成してしまい施主が刑事罰(罰金,懲役刑)をうける場合がある.
以下仙台市の広瀬川沿いの第二種環境保全区域(図1)
において違法に造成されたと考えられる宮城第一高第二グラウンド(図2)を例に
公開されている情報および公開を請求した情報をもとに,この工事の問題点を以下の2点(保全率と樹木の伐採)に絞って説明しながら,環境保全区域で家を建て庭を造る場合の注意点を考えたいと思います.
1)保全率について
保全率は敷地に対する保全用地の割合をいい,
保全率 = 保全用地面積/工作物の敷地面積
となります(条例施行規則第14条第1項一ハ(1)).
保全率100%は人の手が入らず,自然の状態が完全に保存されている状態です.
環境保全区域では,用途地域ごとに最低でも守るべき保全率があり,仙台市の場合は160㎡未満の狭小敷地を除くと,この記事を書いている時点で
- 特別環境保全区域(保全率42%)
- 第一種環境保全区域(保全率36~30%)
- 第二種環境保全区域(保全率30~24%)
となります.
環境保全区域以外では,保全率0%でも構いません(建ぺい率の基準等は満たす必要がある)。
「保全用地」とは「自然的環境の保全のために確保されている土地」(条例施行規則第14条第1項一ロ(1))のことで,裸地(らち)の他に植物が植わっているか(すぐに)植えられる状態の土地をいいます.
一般に,工事を始める前は,更地(人工的に作られた裸地)となっている場合が多いのですが,環境保全区域では樹木の伐採に制限がある場合がほとんどで,更地にするための樹木の伐採が許可されるか,また,許可された場合も,大抵の場合は代替樹の植樹等の自然環境を回復するための措置が義務づけられるので注意が必要です.
「工作物」は「建築物」と「建築物以外の工作物」に分けられます.
「建築物」とは,おおまかには,「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱もしくは壁を有するもの」をさし,建築基準法第2条に明記されているものなどで,建築物に付属する「門」や「塀」なども含まれます.
「建築物以外の工作物」とは,「土地または建築物に定着する工作物のうち建築物以外のもの」をさし,条例施行規則第12条第1項に「門」「塀」「柱」「駐車場」「遊戯施設」等いくつかのものが明記されています(注1).
注1 仙台市は,工作物の範囲を,行政の権限で,条例本文のものより限定することができ,条例手引き9ページに記載の無い,「コンクリート」や「人工芝」は許可を要する工作物ではない,としています。ただし宮城県や国のように市長の許可でなく通知を行て工事を行う公共団体においては,コンクリートや人工芝などは工作物にあたり保全率の規定に影響します。
それでは,図4に示す,宮城県の行った宮城第一高第二グラウンドの造成工事の保全率をみてみましょう.
この敷地における条例の定める工作物(*は仙台市は工作物でない,あるいは,**工作物であるが規模(高さ)によって許可を要する工作物でない,としているもの)は,
- *人工芝グラウンドおよびその周囲に設置された*排水溝
- トイレ
- 倉庫
- 塀(グラウンド全周,図5,ただし,仙台市長はこれを「塀」でなく**「鉄柱」としている)
- **塀(駐車場敷地北面)
- **門
- 照明灯
- **自動車,原動機付自転車,自転車駐車のための施設
- *水飲み場
- **埋設管(グラウンド下の暗渠排水管,グラウンド周囲の排水溝から下水への排水管,トイレへおよび水飲み場への上下水道管,トイレの汚水管,照明灯,トイレおよび倉庫への電気配線を通す管)
であるが,工作物の敷地境界塀がグラウンド敷地を規定しており,保全率を考えるうえでは,敷地のうちの第二種環境保全区域の敷地面積6581.90㎡について考えれば良い(注2)ので
保全率 = 保全用地面積/工作物に係わる敷地面積(第二種環境保全区域)=366/6581.90 = 0.0556 = 5.6 %となり,規定の24%の1/4も満たしておらず違法です.
(注3)。
注2 本グラウンドでは,
工作物に係わる敷地面積 > 建築敷地面積
であり,建築敷地は工作物敷地に含まれる(建築物も工作物なので,なお,建築物敷地を工作物敷地から除外して別途保全用地を定義することはできない)。建築敷地面積は,建ぺい率を計算するのに用いるもので実体(境界塀など)はなくても良い。
一般の狭小住宅では,
建築敷地面積 > 建築物以外の工作物に係わる敷地面積
なので,工作物に係わる敷地面積に建築敷地面積を使っても問題無い.
注3 条例第9条第2項に,国または地方公共団体が工事を行う場合,「許可」を得る必要はなく,「通知」すれば良いとあるが,これは,好き勝手にできるという意味でなく,国や地方公共団体が工事を行う場合は,仙台市に許可を受けるのでなく,団体自身で許可を受ける要件に達しているか確認したうえで「通知」することとなっているだけで,通知を行った工事が条例で規定されている要件に適合していない場合は,「通知」でなく「犯罪予告」にあたるだけで,許可を得ずに工事を行ったことになると思われる.