雨に濡れた紫陽花は6月の庭をゆっくりとやさしい風景にしてくれています。
梅雨の季節に咲く紫陽花は色も鮮やかで、そのみずみずしさは心の底に眠っている思いが
蘇ってくるような気持にさせてくれます。抒情があってとても人の心をひきつける花だと
思います。美しい花を見た感動はなかなか言葉にはなりません。「ああ」とか「うわあ」
とかそんな言葉が最初に漏れます。しばらくして花物語や花言葉やそれぞれの人生と重な
っていくように思えるのです。紫陽花の青は人の物語を吸い込んでくれるような色合いに
思えるのは私の感情移入の多さでしょうか。
江戸時代オランダ商館の医師として日本に来た「シーボルト」もこよなく紫陽花を好み,
本国に帰り、紫陽花の花の命名に関して、シーボルトの日本人妻であった方の名前を付
けようとしたとも聞いたことがあります。それほど紫陽花を愛でる人は多いのかもしれ
ません。
まさしく日本の風土に似合う花の一つであると思えます。ですから水彩画や日本画に
適した素材ともいえましょうが、残念ながら私には描く才は有りません。
今年も我が家の庭にはたくさんの紫陽花が咲きました。自画自賛でしょうが紫陽花祭り
たけなわと申せましょう。仏壇をはじめ家じゅう紫陽花を飾り紫陽花づくしの時間を私
は楽しんでいます。また、我が家を訪ねてくださった知人や友人と紫陽花を眺めながら
共有できる語らいにうれしさを感じています。
紫陽花(額紫陽花)は日本が原産であり、やがて西洋にわたり改良された紫陽花が逆輸
入されたものが西洋紫陽花だそうです。近頃は紫陽花の改良が進み多種の種類が店頭に
並んでいます。どちらかというと、私は額紫陽花や青や白の色彩で咲く従来の紫陽花が
好みです。
また、紫陽花の咲くころから日ごとに緑が深まり、梅の実が育ってゆきます。今年も
我が家の枝垂れ梅もたわわに実を付けました。晴れ間を見ながら梅をもぎ、自家製の梅
ジュースや梅干しを作る時期となりました。
家の前にある公園の樹木からは四十雀が「スピッツ スピッツ」と囀る心地よい空間
に包まれて紫陽花は今年も鮮やかに咲いてくれました。毎朝紫陽花を見ることで、老い
への道すがら思い出を重ねながら立ち止まれる喜びを味わっています。
(2023.6.2)